彼と付き合い始めて今日で2カ月と10日が経った。
私の恋人はムカデだ。
「彼氏ができたの。」
お父さんの出張中、夕飯の支度を手伝いながらお母さんに、こっそり彼のことを打ち明けると、
「昆虫とか甲殻類とか、足がいっぱいある相手だといろいろ大変よ~。」
と、いとも事も無げに、肯定とも否定とも取れない答えが返ってきた。もっと驚いたり、喜んだりしてくれるかと思ったのに。
昨日お母さんにあなたのことを言ったらね、と足の数にまつわる難しさを彼に伝えたところ、彼は
「あははは、お母さんは面白い人なんだね。今度、皆でおしゃべりしに、君の家に行ってもいい? そうしようよ。」
と言い、彼からの申し出を断れない私は、ちゃっかり次のデートの約束を取り付けられた。しかも、家に来るらしい。
お母さんはウォンバットだから足が4本で平均的だし、哺乳類だし、別にいいんだけど、約束した日は鋼曜日だからお父さんも家にいる日だ、お父さんも彼に見られてしまう。どうしよう。足の数の話なんか、彼にするんじゃなかった。ただでさえ、私は2本しかない人間なんだから、足の多い生き物の気持ちなんか分かるはずがないのに。
そんなことを思案しながら、彼と別れて家へ帰ると、ウニの父が、キャベツを食べながらテレビを見ていた。一体どれが足なんだろう。夕飯の時にでも聞いてみよう。