山羊、飴玉、そらまめ、金魚

ごくごく個人的な事情

立派な剣と白タイツ、煌びやかなティアラとドレス、共通するのは歌唱力

 何かをこの手に握ってはいるものの、その何かにおける主役は自分だと思えないまま、今まで生きてきた。

 それではいけないのだと物心ついたときから薄々感じていたし、そういう教育も受けた。あなたの人生はあなたのもの、他人に迷惑を掛けない限りはその人が幸福だと感じるように生きることが一番。

 意識的に言動を仕向けなくとも自然と主人公然とした振る舞いができるよう、思いつく限りの努力もしてきた。量も質も足りていないと言われればそれはまったくそうだとしか言えず、悔いが残らないような言動をしてきたのかと問われれば決してそんなことはないが、それでも努力はしてきた、今もしている。

 

 

 

女性の上司の唇が普段よりも紅く光っている、気持ちが悪い。

隣の部署の先輩が遅刻ばかりしている、気持ちが悪い。

ランチに誘ってくれる同僚の声が小さすぎて何も聞き取れない、気持ちが悪い。

何ヶ月ぶりかの友人からのメッセージにやたらと絵文字が多い、気持ちが悪い。

 

もちろん、個の人間として皆を嫌いなわけではないが、ワンクッションとして拒絶が挟まれる。

何もかもが、知覚するすべての人間が、理不尽に、様々に、気持ち悪い。

 

 

 どうあっても気持ちが悪いとは思わない人間のことを、好きというらしい。

 家族以外の、かつて好きだった人間からは、自分の目の前から消えてほしいと切に望まれ、その旨を何ヶ月にも渡って懇々と言い聞かされ続けた。お前は、醜くて、頭が悪くて、生きている価値がなくて、それでも死に損なって、治療する価値もないから、適当な人間と適当な人生を送るしかない人間だ、と。

 今、好きな人間は、きっとほとんどすべてのあらゆる人間のことが好きで、私のことを特別に好きではない。

 

 

 主人公であれば、主役であれば、ヒーローであれば、ヒロインであれば、……。

 

 そうなれないから上のような言葉を受けるのだし、上のような言葉を真に受けてしまうからそうなれない。

 

 手綱を握っているだけでは、どこへも行けない。